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吉原食糧株式会社
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これがさぬきうどんの小麦粉

「足踏み工程」をさらに掘り下げる(Part 2)

(1) 讃岐のうどん作りの逸話

こんな話があります。昭和43年、岡山県(瀬戸内海をはさんで、香川県の正面に位置する)からのお客さんがさぬきうどん店にうどんを食べに来た....そこで店の人が小麦粉生地を足で踏んでいるのを見て、「不衛生だ。食べ物を足で踏んで作るとは何事。」とばかりに保健所に通報して、ちょっとした騒動になりました。

さぬきうどんに関する記事の中で時々「この一件で、香川県が足踏み禁止令(条例)を出した」と書かれていますが、実際には県から禁止条例は発令されていません。麺類製造業の許可を与える条件として、より衛生的なうどん製造ができるように、必要な機械や器具を明示したのです。これは、製麺所が対象の食品衛生法の細則であり、飲食業のうどん店は対象外でした。(興味のある方は、書籍「だから さぬきうどんは旨い」 第一章〜なぜ、さぬきうどんはこれほど人気を得たのか〜をご覧ください。)

この一件は近県の岡山県の人でさえ、うどんを作る際に「生地を足踏みで鍛える」という、さぬきの人にとっては当たり前のことに違和感を覚えた.....つまり、昭和40年代(日本は高度成長期の真っ只中)では、すでに「足踏み工程」は一般的ではなかったということを示しています。

昭和40年代までの讃岐では、とにかく小麦粉生地を踏みに踏む、とにかくこれでもか!というほど踏んで生地を鍛えていました。
硬練り(かたねり:10〜13%程度の塩水を使用し、加水は40%強位に設定)で練った生地を4〜8枚ほど重ねて踏み込みました。私は、戦後のさぬきうどん業界を立ち上げてきたうどん店主や職人の方からよく、硬い生地を踏み続けるこの作業の苦しさについて聞きました。それは、大変な重労働でした。私自身も小学生低学年の頃(昭和40年頃)、当製粉工場の工員さんが荷車に小麦粉を乗せて近所のうどん屋さんに納品する時について行き、製麺所の作業場一面に何枚も重ねて敷き詰められた座布団のようなうどん生地をゴザの上から、ピョンピョン飛び跳ねて踏むマネをしたものでした。

(2) なぜ讃岐では、昔からこれほど「足踏み」にこだわってきのか?

当時の農林26号(昭和15年〜50年代初期)という香川県産小麦は、たんぱく量が少なく、またグルテン質も伸展性や弾力が少なく(北海道産以外の国内産小麦は 現在に至っても一般的に同じ傾向を持つ)、硬練りで、しかも踏みしめる工程を入れないと、満足のいく「うどんの噛みごたえ、弾力」が出てこなかったのです。現在のASW(豪州産)は、たん白量・グルテン質が適度にあり、昔のように固練りや踏みしめたりしなくても、弾力のあるうどんが比較的容易に作ることができます。
しかし、香川県ではASWを使うようになった今でも、製麺機械(プレス加工)を取り入れながらも、足踏み工程を加えて自分なりの食感を作り出すうどん店が多いです。

(3) 足踏み工程の意味とポイント

「足踏み工程」とは、「うどん生地に対して、「適度な力」を「いろいろな方向」から加えることによって鍛(きた)える」ということです。

さらに詳しく言うと、小麦粉と塩水を捏ねてできる「グルテン」(うどん生地の骨格を成す)を鍛えることにあります。グルテンとは、小麦粉中のたんぱく質から成り、水で捏(こ)ねることによってできる、立体的な網目状(スポンジ状)の弾力を持つ物質のことです。
「さぬきうどんを打つ」とは、「グルテンの弾力性(押せば押し返してくる応力)をいかに引き出すか」ということに言い換えることができます。名だたる手打ち職人は、この生地の物性、つまり手のひらや指先で感じる「弾力」によって、うどんの食感と結びつけることができる感性の持ち主とも言えます。

このグルテンを、たとえばロール式の圧延機で帯のように延ばした場合、グルテンは一方向に向かって延び、単純な並びの組織構造しか持ちません。これに対し、うどん生地を折りたとみながら足踏みを繰り返すと、うどん生地(の骨格のグルテン)はいろいろな方向から適度な力を加えられ、序々に網目状の組織ができていき、弾力性を持つようになっていきます。
まさに、グルテンは生き物なのです。

この複雑な方向へ伸ばされ、適度の圧力によって鍛えられたグルテンは、さぬきうどんの「噛みごたえのある食感」を作ります。足踏み工程の「鍛え」の有無の差が出るのは、茹後 時間が経ったうどんの食感の差です。よく鍛えた生地のうどんは、茹後数時間たっても弾力がある程度残ります。機械式の簡単な圧延のみですぐ切り落としたうどんは、15分も経つと歯ごたえのない、ふやけたような柔らかさになり大きな差がでます。
一言で言うと、「時間をかけて少しづつ、いろいろな方向から力を加えるとグルテンは一層弾力を持つようになり、その内在力は長時間持続する」ということです。

【Q&A �@】
足踏みし過ぎると、生地が傷んでしまうのであまり踏まない方がよい?

答えは「No」です。原料小麦がASWであっても、さぬきの夢2000であっても。
また、「踏みすぎると茹でた時、うどんが切れてしまうのでは?」と心配する質問を受けることがありますが、うどん生地はそんなに弱いものでは決してありません。3分間の足踏みを、計5〜6回踏んでも生地はなんともありません。
ただし、鍛えれば鍛えるほど、その後の「熟成=経時の生地物性の変化」が重要になります。(後述)

もし、生地がヒビ割れするという場合は、加水量と塩濃度、そして、生地全体に塩水が行き渡っているかどうか、をチェックしてください。
ASW主体のうどん用小麦粉なら、製麺機を使わない完全な手打ちの場合、加水49〜51%、塩濃度 6〜13%程度で適宜調整していけば、まずヒビ割れすることはありません。加水は多いほうが生地がしっとりし、ヒビ割れしにくくなります。
また「手合わせ(水合わせ):小麦粉と塩水を混ぜて捏ねる」作業は手早く行い、小麦粉全体にできるだけ均一に塩水が行き渡るよう すばやくかき混ぜてください。生地に加水のムラがあると、そこだけグルテン形成が行われず、ポロポロ割れたり、ヒビが入ったりします。

もし、それでもヒビ割れするなら、ミキシング後、そぼろ状(ダマ状)の生地をビニールに入れ、軽く手で押し固めて30分程度置いて、それから足踏みすると良いです。

ミキシング後の生地が、そぼろ状でなく、細かめなザラ目状でサラサラの状態なのは、加水量が少ないためで、この場合はグルテンのつながりができにくくなります。
対処としては、前記のようにビニールで固めて長く置くか(効果には限界がある)、加水量を増やすかのどちらかしかありません。グルテン形成には、ある程度の加水量が必要であり、必要量に達しないとグルテン結合がうまく進まず、茹でた時にうどんが切れたり、うどんの表面にイボのように気泡がポツポツできたりします。
この状態を、「グルテン不形成」と呼びます。

ちなみに、中華麺の場合は30%台前半の(低)加水で製麺しますが、機械ロールによる高圧の圧延を連続して数回行うことによって製麺が可能となるのです。又、高たんぱく量の強力・準強力小麦粉を使うので、ガッチリと強固なグルテンが短時間で形成されるため、麺はつながり易いのです。

【Q&A �A】
足踏みをし過ぎると、うどんが硬くなる?

生地(グルテン)を踏んで鍛えていくと硬くなるのは当然です。流動性を持つ物質は外力を加えられると、内部に歪(ひずみ)を生じて硬化していく性質を持っています。

たとえば、1kgの小麦粉を用意し、加水48%、塩濃度13%で、足踏みを3分×5回行うと.....。足踏み2回目ともなると、踏み始めて1分もすると、相当硬くなってきます。それでも、踏みこむ。
このあたりで、「これは踏みすぎなのではないだろうか?」と疑問になってくるのかもしれませんが、1.5kg程度の小麦粉生地は、人がグイグイ踏んだくらいで そうへこたれはしません。織り込みながら、2〜3分の間をおきながら、踏む。これが、さぬきうどんらしい「噛みごたえ」を作りあげていくのです。

さぬきうどんの生地は通常、1玉1.5kgで作ります。この大きさが、手で揉み、足で踏み、めん棒で伸ばした時ちょうど良い面積になるし、うどんの長さもちょうど良いのです。
(これを、たとえば少量500gの小麦粉で同じように踏み込むと、生地にかかる圧力は相当大きなものになるので、小麦粉の量(生地の大きさ)があまりに少ない生地を踏む場合は、それなりの加減をしてやる必要があります。)

さて、ここで大事なのは、鍛えた後の「熟成」(生地の経時による物性変化)です。
3分×5回踏んだうどん生地は、踏み直後相当硬くなっています。そして生地の硬さと弾力は、時間と共に刻々変化していきます。よく鍛えられたうどん生地は踏んだ後、放置されても、ある時間になるまでまだ硬くなっていき、ある時点から軟化し始めます。単純に時間と共に柔らかなる場合だけではないのです。
この時間変化をとらえることが、うどん打ちにはとても大切なのです。

いつの時点で、伸ばしてうどんに切り落とすか。踏んで間もない時間で切り出すと「硬め」に、ある程度時間が経過して(たとえば、3時間)適度に柔らかくなった生地を切り落とすと「適度な弾力」に、さらに一晩おくと「もちもち柔らかめな弾力」となり、それぞれ食感が大きく違ってきます。
先述のように、手打ち職人はこの物性の変化を指先、あるいは手のひらの感覚で感じ取って、うどんの食感と関連づける感覚を持っているのです。
つまり足踏み後、「熟成時間(生地を軟化させる時間)」をどう取るかによって、いろいろな食感のうどんになるのです。

整理すると、足踏み工程とは....

(1)小麦粉生地を人間の体重による足踏みという「適度な外力」で鍛えれば、生地の骨格を成す
   「グルテン」が強い弾力性を持つようになる。(5〜6回程度の足踏み程度ではグルテンは全く
   問題ない。むしろ、その後の熟成(緩和の時間)を取ることで、よりダイナミックな弾力を持つ
   ことも可能。)

(2)よく鍛えた生地は休ませる時間を取る必要がある。(内部に歪(ひずみ)が起き、硬化した組織を
   軟化させる時間が必要) ⇒ 生地(内部組織)の緩和。

(3)「軟化」の過程で、「押したら押し返してくる適度な弾力」となる時間帯がある。それを見出すのが
   手打ちうどん作りの妙味である。

尚、「足踏み」と共に、うどんの食感を決める重要なポイント「熟成」については、別スレにてご説明します。

掲載日 : 2009年5月20日