秋に種を播いて、翌年の初夏に収穫する小麦。日本も含めて、世界の小麦の大部分が、冬小麦として栽培されています。
春に種を播いて、夏の終わりから秋にかけて収穫する小麦。
冬季の寒さが厳しいアメリカの北部,ヨーロッパの北部,カナダ・ロシア・北海道の一部など限られた地域で収穫されます。
小麦が耐えられる低温の限界は−20℃位で、寒波に直接さらされた場合、枯死することがあります。このような限界温度以下になるカナダや米国中西部の北地域等では、寒さを避け て春の雪解けをまって種播きが行われるのです。
又、硬質小麦の場合,一般に春小麦の方が冬小麦より製パン適性が優れており(カナダ産小麦「ウエスタン・レッド・スプリング」等),この差は蛋白質の一つであるグリアジンの質(後述の「小麦と小麦粉の化学的成分」の項をご参照ください)の違いによります。
本来、小麦は植物学的には秋播性と春播性を持っています。秋播性の小麦(冬小麦)は、生 育の初期に寒冷な条件が必要であり、春播性の小麦(春小麦)は寒冷な条件には反応せず、芽を出しません。
冬小麦は冬の間に適度の成長をした後、春になって急激に成長して、初夏に完熟します。このように冬小 麦は長い時間をかけて成長し開花し実をつけるのに比べ、春小麦の生育期間はかなり短く、収穫量は冬小麦 の3分の2位と少なくなります。
従って 世界の生産者はできるだけ収量の多い秋播きの冬小麦として栽培しようとします。
その例として、米国のモンタナ州(の約半分)やワシントン州のように冬小麦としても、春小麦としても環 境的に栽培可能な地域では、本来春播性の小麦を収穫量の多い秋播きの冬小麦として栽培しています。
又、うどん用小麦の主たる輸入先であるオーストラリアでは、小麦としては冬小麦として栽培されて ていますが、その品種の大部分は植物学的には春播性なのです。
最近では、春化処理(vernalization)(発育の初期段階で、温度の効果を使用して人為的に生殖的性質を変 化させること)や 栽培管理技術の進展によって、春播性と秋播性の小麦の交配も可能となり、育種での 交配によって中間的な性質の小麦も多くなってきています。
今後は、それぞれの自然環境に合わせた、より栽培しやすく、より品質がよく、より収穫量の多い品種が 開発されていくことでしょう。
以下に、日本で使われている小麦の銘柄別特性を示しました。
| 産地・銘柄 | 等 級 | 蛋白質量 | 質 | 色 | 栽培時期 | 遺伝的特性 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| カナダ産ウエスタン・ レッド・スプリング |
No.1 | 13.5%以上 | 硬質 | 赤色 | 春小麦 | 普通系普通小麦 | パン・中華めん |
| アメリカ産(ダーク)・ ノーザン・スプリング |
No.2以上 | 14.0%以上 | 硬質 | 赤色 | 春小麦 | 〃 | パン・中華めん |
| アメリカ産ハード・ レッド・ウインター |
No.2以上 | 13.0%以上 | 硬質 | 赤色 | 冬小麦 | 〃 | パン・中華めん |
| 〃 | 〃 | 11.5%以上 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 |
| 〃 | 〃 | - | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 中華めん |
| オーストラリア産 プライム・ハード |
13.0%以上 | 硬質 | 白色 | 冬小麦 | 〃 | 中華めん | |
| カナダ産ウエスタン・ アンバー・デュラム |
No.2以上 | 硬質 | 白色 | 春小麦 | 二粒系デュラム小麦 | パスタ | |
| オーストラリア産 スタンダード・ホワイト |
軟質 | 白色 | 冬小麦 | 普通系普通小麦 | 日本めん | ||
| 国内産普通小麦 | No.2以上 | 軟質 | 赤色 | 冬小麦 | 普通系普通小麦 | 日本めん | |
| アメリカ産ウエスタン ・ホワイト |
No.2以上 | 軟質 | 白色 | 冬小麦 | 普通系普通小麦+クラブ小麦 | 菓子 |
(製粉振興会 資料より)
小麦の粒の色によって、「赤小麦」(実際は褐色色)、「白小麦」(実際は黄白色)に大別されます。
この色調は、赤褐色系統の色素を持っているかどうかによって分かれます。
小麦は一般的に、たんぱく量が多くなると色が濃くなる傾向があります。硬質小麦の高たんぱく質の小麦 褐色度の強い小麦を「アンバー(褐色)」という言葉で形容する場合があります。
うどん用のオーストラリア産小麦(ASW)は、白小麦です。
日本でパン用の原料として使われている…
は、いずれも赤小麦で硬質小麦です。
小麦の品種固有の特性である「粒の硬さ」によっても、小麦を分類します。
単純に表現すれば、粒が硬い小麦を「硬質小麦(Hard系小麦)」、柔らかい小麦を「軟質小麦(Soft系小麦)」と呼びます。
硬質系小麦は、小麦の胚乳部は緻密で、一方 軟質小麦は粗い状態となっています。
一般的に、硬質小麦はたんぱく量が多く、粒に色は褐色系です。国内産小麦のほとんどの品種は軟質小麦に属しますが、たんぱく量は通常の軟質小麦と呼ばれるものよりやや多目であるので「中間質小麦」とも考えられています。
軟質と硬質のこのような硬さの違いは何に由来するのでしょうか。
まだ定説はないのですが、主な考え方として硬質小麦は軟質小麦に比べて、フライアビリン(friabirin) という、でん粉に結合している「たんぱく質」をより多く含んでいるためという説が有力です。
又、硬質小麦と軟質小麦では、でん粉結合たんぱく質の中の主成分である水溶性たんぱく質の分子量の分布 が違っていて、硬質小麦には低分子量のたんぱく質はわずかか、或いは全く存在しませんが、軟質小麦には 低分子量のたんぱく質が存在していて これが両者の差になっていると考えられています。
小麦を短軸方向にナイフでカットする時、切断面が半透明に見えるものを「硝子質粒」、白っぽくて 不透明なものを「粉状質粒」といいます。
硬質小麦は「硝子質粒」で、軟質粒は「粉状質粒」ですが、まれに硝子質になるはずの品種でも降雨量 が多すぎたりすると質が落ちて、粉状質になる場合もあります。
専門的な評価として、穀粒切断器を使って100個の小麦粒を一挙に切断し、硝子率を算出し小麦の品質評価等に使用します。
小麦粉の走査型電子顕微鏡による比較 (「世界の小麦の生産と品質」より)

強力小麦粉(120倍)

薄力小麦粉(120倍)
この写真のように、小麦の硬度の違いによって小麦粉の粒度が違うことがわかります。
硬質小麦からできる強力小麦粉の方は、たんぱく質とでん粉がくっついて大きな塊状ですが、軟質小麦からできる薄力小麦粉は、小さく粉砕されています。
このことが小麦粉を手で握った時の感触として、強力粉はサラッとして粗く、薄力粉は細かいという差になるのです。
掲載日 : 2007年06月19日